近年、車の安全性能が向上し、事故による被害軽減率も高まっています。しかし、安全性能が向上しても事故に遭う可能性はゼロにはなりません。安全性能が向上した最新の車を残価設定ローンで購入しようと検討している方もいるでしょう。残価設定ローンの車で万が一事故に遭うと、どのようなことが起こるのでしょうか。
この記事では、残価設定ローンの車で事故に遭った際のリスク、事故に備える方法を紹介します。最後まで読んで、残価設定ローンにかかる負担を正しく理解しましょう。
残価設定ローンの特徴
残価設定ローンは、残価と呼ばれる将来的な予想下取り価格を設定し、残りの金額をローン返済する方法です。車のローンには、マイカーローンもありますが、残価設定ローンと何が違うのでしょうか。ここでは、残価設定ローンの特徴をおさらいしましょう。
支払い完了しても自分の車になるとは限らない
残価設定ローンは、金融機関のマイカーローンと同じように毎月決まった金額を支払う方法です。大きく異なるのは最終支払いで残価をどのようにするか決める点です。
ローン返済が終わり、最終支払いを迎えると「残債を一括支払いして買い上げ」「車の返却」「新しい車に乗り換え」いずれかの選択を行います。残価の精算が終わるまでは所有権を持てないことも、マイカーローンと大きく異なる点です。
月々の支払額を抑えながら新車に乗れる
残価設定ローンは、車両価格の一部を数年後の下取り価格(残価)として契約します。ローンを組むのはこの残価分を除いた金額のみであるため、月々の支払額を一般的なローンよりも抑えられるのが魅力です。
例えば、車両価格350万円の車を購入する場合、一般的なローンは350万円を全てローンで支払います。残価設定ローンは150万円を残価とすれば、残りの200万円をローンで支払う仕組みです。短期間で新車に乗り換えたい方にとっては魅力的な購入方法といえるでしょう。
残価設定ローンで購入した車で事故を起こしたらどうなる?
どれほど運転技術が優れていて安全運転していても、車の運転中は事故に遭うリスクを避けられません。ローン返済中に万が一事故に遭ったらどうなるのでしょうか。ここでは、残価設定ローンで購入した車が事故に遭った際のリスクを紹介します。
修復歴がつくと車の故障リスクが上がる
車体はフレームやルーフパネル、フロアなどと呼ばれる骨格で立っています。この骨格部分が損傷し、修復するとつくのが修復歴です。
骨格部分は車体の強度を保つ役割を担っています。事故による損傷を修復しても、細かなゆがみが残ることも多く、新車状態まで戻すのは困難です。外観はきれいに見えても、乗り心地に違和感があったり、雨漏りをしたりなどさまざまな不具合が起こるリスクがあります。
修復歴がつくと車の価値が下がる恐れがある
修復歴のある車は故障リスクが高いため、査定時に大幅に減額されてしまいます。車種にもよりますが、20万円~50万円程度は減額されるのが一般的です。
残価設定ローンは残価保証条件のひとつとして「事故による修復歴がないこと」と定めています。最終支払い時に査定を行い、あらかじめ決めた下取り額(残価)とその時点での査定額を比較します。修復歴がついた車は、想定していた下取り価格を下回ってしまい、差額分の精算が必要です。差額分は一括支払いが必要になるため、大きな出費になる可能性があります。
評価損が発生しても使用者の負担になるケースが多い
評価損とは、想定下取り額(残価)と実際の下取り額の差です。残価を150万円に据え置いた車が返済中事故に遭い、120万円で査定されたとします。その差額30万円が評価損です。評価損分は負担しなくてはなりません。
事故の過失割合で相手方の責任が大きく「相手に評価損分を請求できるのではないか」と思う方もいるでしょう。「残価設定額は評価損の算定に左右されない」といった裁判事例もあるため、評価損が発生するともらい事故であっても差額分は請求できず、自費で支払う可能性が高いといえます。
残価設定ローンの車で廃車になるような事故を起こしたら?
事故で損傷状況が大きければ、修復が困難で廃車せざるを得ないこともあります。再度車として使えないほどに損傷しても、ローンは支払い続けなければならないのでしょうか。ここでは、廃車になるような事故を起こした際に残価設定ローンはどのようになるのかを紹介します。
廃車にしてもローンの支払いは免れない
事故の状況によっては、車体が大きく損傷し修復が困難なケースもあるでしょう。修復が困難になれば廃車することになりますが、廃車したからといってローンの返済義務が免除されるわけではありません。車が手元になくなっても、ローンの返済と残価の支払いが必要です。
廃車にするには所有権の変更が必要
残価設定ローンで購入した車は、最終支払いが済むまで所有権を持てません。一般的に所有者名義は残価設定ローンを契約したディーラーもしくは信販会社、使用者名義は契約者の名義が使われています。所有権とは、車の使用、売却・廃車を行う権利です。使用者名義は車を使用する権利のみであるため、事故を起こしても勝手に廃車を行えません。
使用者が廃車するには、所有権を移してもらう「名義変更」が必要です。名義変更するためには、ローンと残価の一括返済を行います。
残価設定ローンでの事故に備えるためにも任意保険に入ろう
かすり傷程度の事故であれば、自費で修理しても良いでしょう。しかし、運転しているとさまざまな規模の事故に遭う可能性があります。大きな事故に遭えば自費で補償するのは困難です。ここでは、車に付帯する保険を紹介します。
自賠責保険だけでは対物補償がカバーされない
車に付ける保険は、任意保険の他に自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)があります。自賠責保険は「強制保険」とも呼ばれ、法律で加入が義務付けられている保険です。通常、車の購入時に加入し、車検ごとに更新を行います。
自賠責保険の補償範囲は「人が死亡」「後遺障害を負った」「傷害を負った」といった対人賠償のみです。対人賠償である上に保険金の上限も決まっているため、車や物の補償がされないなど、事故が起きた際のカバーが限られてしまいます。そこで役立つのが任意保険です。任意保険に加入すると、対人・対物、自身の補償も行えます。
車両保険を付帯すれば事故による修理代を支払える
事故は相手がいるとは限らず、単独事故を起こす可能性もあります。単独事故で自分の車が損傷した場合、自賠責保険では補償を受けられず、自分で支払わなくてはなりません。このようなときに役立つのが、車両保険です。
車両保険を付けると保険料は高くなります。しかし、残価設定ローンは下取り価格をあらかじめ設定しているため、損傷したままでは差額費用の支払いが必要です。残価を保証してもらうためにも、車両保険は付けておくと安心です。
残価設定ローンの車に適した任意保険を選ぶポイント
任意保険は、契約内容によって補償される範囲や支払われる保険金額が異なります。しかし、任意保険は補償内容が複雑で、どのような契約をすれば良いのか悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。ここでは、残価設定ローンの車に最適な任意保険の選び方を紹介します。
対物賠償
対物賠償は、事故の相手方の車に加え、電柱・壁・ガードレールなど他人の物を損傷させてしまった際の修理費用を補償するものです。店舗の所有物などの修理で休業せざるを得なかったときは、休業補償も含まれます。近年増加している、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる事故も、保険金支払いの対象です。
残価設定ローンで踏み間違い防止機能が付いた車を購入することも大切ですが、万が一に備えて対物賠償は保険金額無制限で契約することをおすすめします。
対人賠償
対人賠償は、事故によって他人に「傷を負わせた」「死亡させた」「後遺障害を負わせた」際、慰謝料や治療費を補償するものです。対人賠償は、自賠責保険でも対応できますが、保険金の制限があります。任意保険の対人賠償は保険金無制限での申し込みが可能です。
事故によっては、相手への損害賠償額が高額になってしまうケースも少なくありません。もしもの場合に備えて、対人賠償は無制限にすると安心です。
人身傷害および搭乗者傷害
人身傷害は、事故で運転者・同乗者が死傷した際に保険金を支払うものです。けがの治療費だけでなく、仕事を休んで治療する際の休業損害を保険金として受け取れます。事故を起こすと示談交渉に時間を要するケースがありますが、人身傷害保険金は示談交渉を待つことなく受け取れるため、心配することなく治療に臨めます。
搭乗者傷害は、人身傷害の補償をより手厚くするものです。人身傷害は実際の損害額が補償されますが、搭乗者傷害は障害の程度や通院・入院日数に応じた保険金が支払われます。
無保険車傷害
事故を起こした際、相手が保険に入っていないケースもあります。保険に入っていないときや十分な補償が受けられないときに役立つのが無保険車傷害です。無保険車傷害を付けると、被保険者や家族が事故によって死亡もしくは後遺障害を生じた際に、補償を受けられます。
車両保険
車両保険は、自車が損傷した際に利用する保険です。車両保険を付けることで、相手がいない単独事故の修理費用も保険金が受け取れます。
車両保険には一般型とエコノミー型(スタンダードタイプ)の2種類があり、補償範囲や保険料が異なります。エコノミー型は保険料を節約できますが、当て逃げ・単独事故などが補償対象にはなりません。残価設定ローンは過失にかかわらず、損傷すれば残価の保証は受けられなくなるため、補償範囲の広い一般型の車両保険を追加すると安心です。
特約
特約は、任意保険におけるオプションです。特約を追加すると、基本補償からさらに手厚い補償が受けられたり、保険料を節約できたりします。以下は、特約の一例です。
・新車特約
事故で大きな損傷を負った場合に、新車価格相当額を上限として保険金が支払われます。
・弁護士費用特約
損害賠償請求交渉などを弁護士へ相談・依頼する際、かかる費用が支払われます。
・代車提供特約
事故による修理で代車が必要になった場合、保険会社が代車を準備する特約です。
・運転者限定特約
運転手の対象を限定することで、保険料を節約できます。
事故による補償が充実した残価設定ローンを選ぶのもおすすめ
任意保険で車両保険も追加すれば、車体に損害が生じた際も修理が可能です。しかし、車両保険を使うと等級が下がるため、できれば使いたくないと思う方もいるでしょう。車両保険を使いたくないという方は、修理補償サービスのある残価設定ローンを探すのがおすすめです。ここでは、残価設定ローンで付帯できる修理補償サービスを紹介します。
日産「BVCケアプラス」
日産のBVC(ビックバリュークレジット)ケアプラスは、残価設定ローンを利用すると無料で付帯されるサービスです。BVCケアプラスは、リアバンパーの修理、純正ホイール・ホイールキャップ修理、ドアパンチによるへこみの修理を対象としています。
補償サービスを受けられるのは、初度登録日から1年間、1回1カ所です。3万円までは自己負担なしで修理対応してもらえるのは、魅力的な特徴といえるでしょう。
三菱「助かる補償」
三菱の助かる補償は、窓ガラス・ドアミラー・タイヤの他、事故修復歴を補償するサービスです。例えば走行中の飛び石でフロントガラスの修理が必要になった場合、最大7万円まで補償します。電柱などにドアミラーをぶつけた場合は最大7万円、パンクによるタイヤ修理は最大4万円までカバー可能です。負担額は3,000円と低額に設定されています。
また、最終支払い時に修復歴による査定落ちが起きた際、最大10万円を価値減価分として補償してもらうことも可能です。
スバル「安心補償サービス」
スバルの安心補償サービスは、日常の運転でうっかり付けてしまう傷・へこみを補償します。修理対象箇所は、フロント・リアのバンパー、ドアミラー、ドア(ドアパンチ)です。初度登録から3年間、少しの負担額で修理サービスを受けられます。
修理補償限度額は、普通車と軽自動車で分かれており、普通車が5万円、軽自動車が3万円です。そのうち1万円が負担金としてかかります。3年間で計6回まで利用できるため、運転に自信がない方にとって魅力的なサービスといえるでしょう。
残価設定ローンが自分に向いているかチェックしよう
「残価設定ローンで事故を起こすと何だか複雑になりそう」と悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。ここでは、残価設定ローンの利用が適している人の特徴を紹介します。
大きなライフイベントを控えている方
残価設定ローンは、3年・5年など短い契約期間が設けられているのが一般的です。契約期間が終わると新しい車に乗り換えられるため、ライフスタイルの変化やライフイベントに備えて、契約のたびにタイプを変更する方法もあります。
例えば、就職して間もない頃はコンパクトカーを購入し、結婚を機にSUVに乗り換え、出産に備えてミニバンを選ぶといった選択も可能です。
先進装備を備えた車へ定期的に乗り換えたい方
残価設定ローンは最終支払い時に「残価を支払って買い上げる」「ディーラーへ返却する」「新車に乗り換える」の中から好きな選択を行います。新車への乗り換えは同じメーカーでなくてはなりませんが、新型モデルへの乗り換えも可能です。
近年の車は、モデルチェンジのたびに安全性能・走行性能・快適性などさまざまな点で改良が行われます。他の購入方法では頻繁に新型モデルに乗り換えるのはハードルが高いものの、残価設定ローンであれば3年や5年など短期間で新車に乗り換えることが可能です。
手元に現金を残した状態で車を購入したい方
残価設定ローンは契約時、数年後の下取り価格を残価として設定します。車両価格から残価を差し引いた金額を契約期間内で分割払いするため、一般的なローンよりも月々の支払額が抑えられるのが特徴です。
いくつかの条件を満たす必要はありますが、残価は保証されています。最終支払い時に残価がそのまま残っていれば、まとまったお金を用意せずに新しい車に乗り換えが可能です。
まとめ
事故によって損傷した車は価値が下がってしまい、中古車として売却する際にも本来の価格より低く査定されます。これは残価設定ローンで購入した車にも共通することで、事故で修復歴がつくと設定した残価よりも下取り額が下がり、差額の負担が必要です。
事故に備えるのであれば、車両保険に加入したり、事故補償が充実した残価設定ローンを選んだりすることをおすすめします。